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【法政大学総長対談】立場の違う人たちへの想像力を持って 身近でできることから行動していこう

法政大学総長 田中 優子

国連難民高等弁務官(UNHCR)駐日事務所 法務アソシエイト 金児 真依さん
2002年 法政大学 社会学部卒業

  • 2016年11月16日 掲載
  • 取組み
  • 卒業生紹介

2002年に社会学部を卒業し、その後コロンビア大学国際公共政策学大学院で国際法・人権法を学び、04年修士号取得。国連インターンや難民支援NGOでの勤務等を経て、現在は国連難民高等弁務官(UNHCR)駐日事務所にて法務アソシエイトとして日本での難民の受け入れや無国籍者のために働く金児真依さん。

なぜ難民を支援する仕事に興味を持ったのか、どのような視点や考え方で仕事に携わっているのか、そして今何をすべきなのかについて語っていただきました。

「異なる者」として排除された存在を助けたい

田中 金児さんは国連職員として長く難民問題に関わっていらっしゃいました。難民を支援する仕事に興味を持ったきっかけからお聞かせください。

金児 不登校だった頃にさかのぼります。私は小学校高学年から始まったいじめのため中学二年生から学校に行けなくなり、フリースクールに通っていました。私の場合は自分の意見をはっきり言うこと、休み時間に自分の好きなことをする等ということが他の生徒と「異なっていた」ことから、いじめが始まりました。これもある意味、異なる者を排除するという構図です。難民の問題も、全く次元は違いますが、宗教や政治的意見等の違いから一部の人が排除され迫害された結果、生じます。大変な程度の差はありますが、同じように「異なる者」として排除された経験から、自然と難民問題に関心を持つようになりました。

田中 リベラルなご家庭で育たれたそうですね。

金児 「多数派であるから正しいとは限らない」という父母の教えが私の根幹になっています。小さい頃から人権・社会問題に取り組む父や母の背中を見ていましたし、リベラルで有名なプロテスタントのキリスト教会で出会った外国人や障がいを持った方など、いわゆる「マイノリティ」の人々と自然につきあいがありました。そのことも今の活動につながっています。

田中 大学は、法政大学社会学部に進学されました。

金児 通信制高校に入り、予備校にも通いながら大学受験の準備をしていたのですが、高3のクリスマスという最悪のタイミングで父が自殺しました。その数週間後には祖父までも亡くなり、センター試験も受けられなかったのですが、弔問に来た父の早稲田の教え子が、これから試験なんて受けられる心境に無い、どうやって生きていったらいいのか、と泣きじゃくる私の話を聞いてくれました。君の疑問を解決するには社会学を勉強したらいい、教授陣が社会学部では一番優れていると、法政大学を勧めてくれたんです。

田中 大変つらい経験でしたね。

金児 父は人格者でイクメンなだけでなく教師としても大変慕われていたのに、「○○はこうあらねばならない」等という日本社会の価値観と自分との間で悩み苦しんでいたように思えます。大学に入って、何でこういう悲劇が起きてしまうのかを考えたいと思いました。

田中 法政大学での思い出をお聞かせください。

金児 マイノリティの人権、アジアの人口移動の問題など、社会学部の授業は刺激的でした。ジェンダーの視点から歴史を考える田中先生の授業もとても面白かったです。差別の社会的構造や、文化的センシティビティ、学問をどうやって社会に直接役に立てるのか等、社会学部で学んだことは沢山あります。今でも人生の転機に相談に行くのは法政大学の先生です。
また、難民を支援するボランティアをしていました。学問的な研究も大事だと思うのですが、性格上、どうしても目の前にいる人を直接助けられるかどうかに優先順位を置いてしまうんです。また、東電OL殺人事件という冤罪事件の被害者で、15年自由を奪われたのち無罪になったゴビンダさんの支援活動に参加していました。

田中 実は、私もゴビンダさんの支援者でした。判決にはDNA鑑定が決定的な役割を果たしましたが、支援運動を続けていかなければあのような結果にはならなかったでしょう。近年、外国人が入ると犯罪が起きやすくなるという恐ろしい偏見が蔓延していることが気になります。

金児 本当にそう思います。多様性への許容量は上がっていると感じる一方で、「難民はゴミだ、出て行け」といったヘイトスピーチやそれに近いものを耳にすることもある。聞くと涙が出そうになります。かつて日本は国際的に見ても、市民レベルの難民に対する姿勢は積極的だったために、難民に対するネガティブなコメントが多くなってきている現状を見ると悔しい。そういう人はネットでがんがん言い続けるので、実は少数派だと思うのですが、多数派に見えてしまう。難民受け入れは国際的な義務ですが、いわゆる支持派が誤解を解くための努力をしないのもいけないのかもしれません。時間をかけて理解を得るために対話していかないと。

どうやったら救えるかという視点を持ちたい

田中 学部時代には留学もされましたね。

金児 交換留学で、カリフォルニア大学デイヴィス校に一年行かせて頂きました。法政大学卒業後はコロンビア大学の大学院に進学、国際人権法の勉強をしました。国連職員やNGOの職員になって難民の支援をしたい希望をかなえるには、アメリカやイギリスの修士号が有効でした。のちに仕事で必要となる日本法については、行政法・地方自治法などは社会政策科学科でも勉強していましたが、憲法や民事・刑事法等は就職してから伊藤塾で必死に勉強しました。

田中 修士号を取られて、国際連合難民高等弁務官(UNHCR)駐日事務所に入られました。国連職員はどのように採用されるのですか。

金児 国連は通常機関ごとに採用を行っています。日本人の場合は、多くは外務省のJPO派遣候補者選考試験を受けて、国際連合児童基金(UNICEF)や国際連合食糧農業機関(FAO)など、希望を出すんです。私の場合はUNHCR駐日事務所にちょうど空きがあったので、直接応募し、10年近く働いたあと、レバノンやパキスタンのUNHCRで国際職員としても働き、今は駐日事務所から休暇を頂いています。

田中 具体的にはどのようなお仕事をされていますか。

金児 駐日事務所の仕事に限って言えば、日本における難民の受け入れや無国籍者の支援に関わる仕事です。難民の認定は法務省が行っていますので、入国審査を行う人たちに対して、難民とはどのような人であるか説明をしたり、パスポートがなくても不法入国で収容しないで助けて下さいとお願いしたり、難民認定を行う職員のみなさんに難民申請者のインタビューや法的審査をどうしたらいいかについて説明する研修活動も数多く行いました。

田中 法律は明確なのですか。

金児 難民条約や、無国籍者に関する条約には、助けるべき人の定義が短く書いてあります。しかし、法の解釈を人中心で考えるのか、国中心で考えるのかで、ずいぶん変わってきます。多くは権力を持っている側の政府が迫害しているため、人権侵害の被害者としての証明も難しい。無国籍者の多くも、国籍がないことを証明しようとしてもできない。どうやったら一番困っている人たちを救えるかという視点で法律は解釈されるべきだという思いでやっています。

田中 日本は難民認定率が低いと言われています。

金児 確かに認定率は高いとは言えません。また、難民申請者が収容されしかもそれが長期化したりするのは避けるべきことだと思います。しかし、最近ではシリア難民を留学生等として受け入れるスキームを作るなど、多くの努力をしていることも事実です。

議論すること、行動することの大切さを伝えていきたい

田中 現在、国際的にも難民問題がクローズアップされています。

金児 難民をめぐる各国の対応としては、例えば収容について言えば、在留資格のない難民申請者の身柄を拘束するのではなく、まずは解放してコミュニティで生活してもらった上でもしも問題が発生したらその時に柔軟に対応するという流れが広まりつつあります。日本においても例外ではありません。

田中 我々日本社会の人間としては、隣人としての難民に慣れないといけないですね。

金児 まさにその通りです。難民認定をもらっても、社会に受け入れてもらえないことがある。黒人だと何度も職務質問を受ける、アパートも借りられないというような現実もありますし、学校でいじめにあう難民の子も多い。「きもいって何?」と泣きながら帰ってきた子どもの話を聞いた時には胸が締め付けられました。

田中 そういう人達の相談も受けるのですね。

金児 はい。UNHCR駐日事務所の職員は、コミュニティにも直接出かけて話を聞いています。その上で、NGOのみなさんと相談して支援の方法を探ったり、広報につなげて理解を促したりしています。母国では大学教授をしていたお父さんが、日本では時給800円の工場で働いており、子どもを大学に行かせたくても現状では難しいと泣かれたこともありますが、徐々にいろいろな大学に協力をいただけるようになり、奨学金で大学進学できる人も増えています。難民の人々は様々な困難を克服して、自分たちの持ち味を生かして学んだり働いたりしており、彼らの存在は、日本社会を豊かにしていると思います。

田中 今後、法政大学としても、協力させていただきたいです。

金児 ありがとうございます。大学進学もありがたいのですが、今稼がなくてはいけない状況の人に、現実的に就職に結びつくような技能や語学の検定を受けるための支援をいただくことも今のニーズに合っているように感じています。

田中 それぞれ事情が違うし、持っている能力も種類も違うから、個別対応していく仕組みが望まれているわけですね。

金児 職員として難民の採用も検討していただけると本当にありがたいです。私は法政大学の取り組みには共感しています。議論し行動することを教える「社会を変えるための実践論」などの授業での取り組みも進んでいますし、法政大学のダイバーシティ宣言はきちんと「外国人」も、「性的少数者」も含めた形で記されていてとても素晴らしいと感じました。

田中 宣言だけではなく、行動することが大事だという思いで取り組んでいます。最後に、国際問題に関心のある学生にメッセージをいただけますか。

金児 日本に生まれたことで享受できていることを当たり前と思わず、努力しても報われない、または努力できる環境にもない状況に生まれた人に対する想像力を持ってほしいと思います。国際問題に取り組むということは、決して難しいことではありません。海外の難民キャンプに行ったりしなくても、日本でもいくらでも国際支援ができる。難民や無国籍者の子どもに日本語を教えたり、無料で家庭教師をしてあげたり(http://unhcr.or.jp/ouentai/interview/i0007.html)、収容中の難民申請者・無国籍者の面会支援をしたり、難民が働くレストラン (http://unhcr.or.jp/ouentai/worldkitchen/wk0005.html)やネイルサロン(http://unhcr.or.jp/ouentai/interview/i0003.html)に行く等と、できることから行動してほしいです。

田中 大事なのは想像力ですね。

金児 私も経験したことなのですが、日本だと学食で政治や難民や人権の話をしたら友達に引かれることもあると思います。でも、アメリカだと政治や社会問題について議論をするのが当たり前ですし、自分の考えを主張できないと逆に馬鹿にされます。授業が終わったあとみんなでピースウォークに行ったりもする。

田中 学生運動の反作用なのかも知れません。内部対立が暴力化して市民運動が衰退し、政治運動が悪いことのように思われた。せっかく背景の違う人と出会える環境にいるのだから、大学という場で議論することに慣れてほしい。大学としてもきちんと教育していきたいと思います。

  今日は金児さんから大切なお話を聞くことができました。法政大学としても難民支援に取り組んでいきたいと思います。今後もアドバイスをお願いします。

金児 こちらこそ、よろしくお願いいたします。ありがとうございました。

※当インタビューで表明されている考えは本人のものであり、所属先の見解では必ずしもありません。


HOSEI ONLINE(http://www.yomiuri.co.jp/adv/hosei/)から転載

金児 真依(かねこ まい)さん

国連難民高等弁務官(UNHCR)駐日事務所
法務アソシエイト
2002年 法政大学 社会学部社会政策科学科卒業
1979年 東京生まれ

在学中にカリフォルニア大学デイヴィス校(UCD)に1年交換留学し、女性学・移民学を学ぶ。コロンビア大学国際公共政策学大学院で国際法・人権法を学び、04年修士号取得。国連人口基金(UNFPA)シエラレオネ事務所でのインターンや難民支援NGOでの勤務等を経て、04年から国連難民高等弁務官(UNHCR)駐日事務所にて法務アソシエイトとして日本での難民の受け入れや無国籍者のために働く。レバノン(准第三国定住官)、パキスタン(法務官)等でも勤務。英語のほかスペイン語も堪能で、行政書士の資格も持つ。共著に『難民・強制移動研究のフロンティア』(現代人文社)、その他無国籍についての論文も発表。16年現在は育児のため休職中。

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