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さあ夏本番!アレを撃退する方法教えます!!

国際文化学部国際文化学科 教授 島野 智之

  • 2017年9月5日 掲載
  • コラム・エッセイ

〜熱帯多雨林のジャングルには、キングコブラのように激しく威嚇してくる毒ヘビもいれば、木の蔓に擬態した緑の猛毒ヘビもいる。木の蔓をつかんだら毒ヘビだったなど、シャレにもならない〜。
 ジャングルの中に飛び込む僕を突き動かすものは、まだ見たこともないダニたちに名前を付け、そのダニたちの生態を明らかにしたいという気持ちだけなのです。

人間の血を吸うダニは1%以下

世界には、名前が付けられただけでも5万5000種のダニがいます。日本に生息するダニの種数は2000種。このうち人間を悩ませるダニは5%以下。まして、血を吸うダニは、全ダニの種数のたったの1%にしかすぎないのです。

僕の専門分野は、森の中で自由気ままに過ごす、人間とは全く関係のない土壌ダニについて研究することです。多くのダニたちは、一部の有害な者たちのために全体が悪者扱いされて迷惑しているかもしれませんね。そんな彼らの立場に立てば、自由気ままなダニのことについて調べる人間がいてもよいと思ったわけです。

日本に約1京匹のササラダニが

ササラダニ類は森林土壌に生息し、落葉や落枝を食べて、良い土を作ってくれます。もちろん、血を吸うマダニ類とは口の形が違うので、人間の血を吸おうと思っても、吸えません。マダニ類はダニの中でも全く別の種類ですので、マダニ類が悪いダニの代表だとすれば、土壌に生息するササラダニ類は良いダニの代表ですね。

日本の国土は68%が森林で、森林面積は約2500万ヘクタールです。種数は考えず、日本では1平方メートル当たり約4万個体のササラダニ類が生息しているとすると、日本の森林だけでも、約1京匹(10, 000, 000, 000,000, 000個体)のササラダニ類が生息していることになります。


カゴセオイダニ (ササラダニ類) 走査型電子顕微鏡像 (島野智之原図)


ヤドクガエルの毒の起源 

僕の研究で最も注目されたものの一つは、ササラダニ類での最初のフェロモンの発見です。この研究は、世界最強の毒を持つ動物の一つ、南米に住むヤドクガエルの毒の起源の発見につながりました。ある日、僕たちがダニのフェロモン物質について調べていると、ヤドクガエルの毒と同じ成分のプミリオトキシンが日本のオトヒメダニから見つかりました。オトヒメダニは世界に広く分布しています。続く詳細な研究で、ヤドクガエルの毒の起源がこの土壌ダニであることが明らかになりました。

ササラダニはダニの中でものろまで、脚の速いアリなどの捕食者に簡単に捕まってしまいます。そこで、このような防御物質を作りだしたのでしょう。もちろん、オトヒメダニの出す微量の毒は、そのままでは人間にとって何の害もありません。しかし、ヤドクガエルは生体濃縮によって、強烈なプミリオトキシンなどの毒を体表に多量に蓄えています。野性のヤドクガエルは、これらの毒のために素手で触ることはできませんが、ペットショップのヤドクガエルは全く安全です。これは、森林に生息するササラダニたちを餌として食べていないからなのです。

僕は、森の中で気ままに暮らす奇妙なダニたちを求めて、生命の危険を顧みず、地球上の誰も行かない場所に採集に出かけて行きます。

幸いなことに昨今、生物多様性研究が僕たちを必要にするようになってきました。他人が研究しない生物を研究するほうが、生物多様性解明に貢献できるということのようです。不思議なことです。

チーズを熟成させるダニ 

最近、良いダニについてある情報を見つけました。ドイツのザクセン=アンハルト州のヴュルヒヴィッツ村だけで生産されているミルベンケーゼ(Milbenkäse、ドイツ語で「ダニ・チーズ」の意)です。中世の頃から作られてきた伝統のあるチーズで、いったん廃れましたが、最近になって伝統が蘇ったのです。製法は「ダニのぬか床」にチーズをつけ込むらしいと分かりました。 

現地を訪れると「東京から日本人がダニを求めてわざわざ来た」と新聞の1面記事になってしまいました。このダニは、チーズコナダニといって、もちろん人間の血を吸ったりはしません。

室内ダニの撃退法教えます

最後に、僕は良いダニの事を研究しているとはいっても、悪いダニの事を知らないわけにはいきません。夏も近いので、室内のダニ対策について紹介しましょう。

①室内のダニはウイルスなどの病原菌を媒介することはない

室内のチリダニ類(=ヒョウヒダニ類)、ツメダニ類が病原菌を媒介することはありません。

②初期段階でチリダニ類を撃退しないと……

チリダニ類は人を刺しませんが、その生息密度を下げることは、ダニアレルギーや喘息を抑えるだけではなく、チリダニ類を食べるツメダニ類の発生を抑えることにつながります。ツメダニ類の餌は微小な節足動物ですが、ときどき人間を刺し、赤疹やかゆみなどの原因になることがあります。

掃除は朝早くか、夜遅く帰ったときに

チリダニ類は明るい日中、光や振動を避けて、じゅうたんや畳の奥に潜んでいますが、暗くなって2時間ほど経つと表面に出てきます。

④掃除機は、1平方メートル当たり40秒以上

大人の寝具(シングル)であれば片面40秒、子供用の寝具は片面20 秒が目安もちろん、じゅうたんも、できるだけゆっくりと。

⑤天日干しだけで、ダニが死滅することはない

ダニは50℃の熱で20~30分、60℃の熱でほぼ一瞬で死滅します。天日干しだけでは布団の中心はこの温度になりませんが、天日干しで膨らんだ布団に掃除機がけをすることでダニを減らすことができます。家庭用の乾燥機やコインランドリーは有効です。布団の材質に気をつけてください。

⑥持続が大事

前述のような方法で効率的にダニ対策をすることが可能です。加熱は3カ月に1度で結構ですが、掃除機がけは少なくとも1週間に1度は行ってください。減らしたダニを、再び増やさないことが大切です。

島野 智之(Satoshi Shimano

専門はダニ学・原生生物学・系統分類学。1968年生まれ。横浜国立大学大学院工学研究科修了。博士(学術)。農林水産省主任研究員、OECDリサーチフェロー(ニューヨーク州立大学)を経て、宮城教育大学准教授、フランス国立科学研究所招聘フェロー。2014年4月より法政大学・国際文化学部/自然科学センター教授。著書に『たけしの面白科学者図鑑 ヘンな生き物がいっぱい!』(対談・分担執筆、新潮文庫)『ダニのはなしー人間との関わりー』(島野智之・高久元編、朝倉書店)、『ダニ・マニア《増補改訂版》』(単著、八坂書房)、『生物学辞典』(編集協力者、分担執筆、東京化学同人)、『進化学事典』(分担執筆、共立出版)など、学術論文多数。

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