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人が幸せになるためのヒントを誰もが持つ「自尊心」からひもとく

GIS(グローバル教養学部)グローバル教養学科
新谷 優 教授

  • 2018年5月27日 掲載
  • 教員紹介

米国での経験を生かしグローバルな視野に立った心理学を追究する新谷優教授。グローバル教養学部特有の環境を生かし、多様な文化を背景に持つ学生たちと、人が幸せになるためのヒントを探っています。

失敗を恐れ、自尊心が傷つく心理は何が原因なのか

社会心理学と文化心理学をベースに、自尊心や甘えの感情が対人関係にもたらす影響について探究しています。

研究のスタートは、失敗を極度に恐れてしまうという自分自身の性格に関する懸念からでした。そうした打たれ弱さが、自尊心のもろさにつながっていると気付き、それはなぜなのか、どのような作用が働いているのか、心のメカニズムを知りたいと思ったのです。

社会を形成する集団の中では、自分と、周りの人はお互いに影響を与え合う相互作用があります。同時に、生まれ育った文化や背景にも大きな影響を受けています。心理学研究の本流である米国に留学して学んだことで、それをより実感しました。日本はおもてなしの文化を持つだけに思いやりのある人が多いと、世界から美徳として評価されています。ただ、相手のためを思うだけでなく、相手から親切な人だと思われたいがために、そう振る舞ってしまう側面も持っています。

例えば、電車やバスの中で席を譲るにしても、明らかに困っていそうな相手には親切にできるけれど、妊婦さんかどうか分からない女性や元気そうなシニア世代などが相手だと、おせっかいだと思われたり、自分が恥をかいたりするのは嫌だと思ってためらってしまう。そうした経験は誰しもあることでしょう。

人に良い印象を与えたい、高く評価してもらいたいという思いにとらわれると、対人関係に息苦しさを感じ、本当に他者のためになるような行動ができなくなります。それを解消するにはどうしたらよいのか。そこに、人が幸せになるためのヒントが隠されていると思って研究を続けています。

多様な背景を持つ学生が集うGISだからこそ学べること

英語中心の環境で学ぶGIS(グローバル教養学部)には複数の国籍を持っていたり、帰国子女であったりと、多様な背景を持つ学生が集まっています。私自身も幼い頃に海外で暮らしていました。日本と外国との違いを感覚的に知っていることで、学術的な理論や知識を学ぶだけでなく、自分の実体験と照らし合わせた検証ができることが強みです。また、多様な文化を知る人が集まれば、多方面からの深いディスカッションができます。教育者である私にとって新たな発見につながることも多く、刺激を受けています。

逆に多様な文化を持っていても、根底には人間として共通する心理があるとも感じています。その一つが、私の研究テーマでもある「自尊心」です。

学生たちを見ていると、かつて私自身もそうだったように、自分の評価をとても気にしているそぶりが見られます。人からどう思われるかを気にしてばかりいると、認めてもらうためには完璧にこなさないとダメだと不安になり、失敗を恐れて身動きが取れなくなります。失敗したら終わりのように考えてしまい、他人のせいや、状況が悪かったからだと言い訳をして失敗の原因から目を背け、より一層失敗を恐れるという悪循環に陥るのです。

失敗は、決して悪いことではありません。失敗したとしても、そこから教訓を得て学ぶことができれば、成長の糧になります。人から良く思われるために取り繕った行動をするのではなく、相手のために、社会のために何ができるのか。それを学生と共に、探究していきたいと思います。

人を幸せにするヒントを広く世界に共有していきたい

心理学は、目には見えない心の中の真理を研究する学問です。もともと「自分の弱さの根源を知りたい」という気持ちが研究の原動力だったこともあり、新しい知見が生まれるたびに、自己が充足される気がします。

しかし、研究者である以上、自己満足で終わってはいけないと自分を戒めてもいます。心のメカニズムを解明することで、対人関係の悩みを解決し、幸せになるためのヒントを明らかにできるかもしれない。そのためにも、実験や調査などで集めたデータからコツコツと真実を導き出し、それを一人でも多くの人に役立ててもらいたい。それが、私なりの「実践知」だと考えています。

そのアプローチの一つとして、これまでの研究を分かりやすくまとめて、2017年に一般書籍として出版しました(『自尊心からの解放 幸福をかなえる心理学』(誠信書房))。これからも心の中の真理を追究し、知り得たことは学生たち、そして社会へと発信し続けていこうと考えています。


文化の違いを受け入れ、踏まえることでダイバーシティの実現につなげる

大学院時代には「甘え」の研究にも取り組んでいました。他人に甘えることは「完璧にできない自分を認めて許す」という側面があるため、自尊心の研究にも通じるものがあります

大人にとっての「甘え」は未熟さを感じさせると、人によってはネガティブに捉えられがちですが、適度な甘えは対人関係を円滑にする効果があります。甘えられた相手は「自分は頼りにされている」と自尊心が満たされ、関係がうまくいくのです。

ただ、そうした「甘え」の感情を表す、妥当な英語表現がありませんでした。spoiling(過度に甘やかす、台無しにする)やdependency(依存)などは、少しニュアンスが異なります。英語圏の人が「甘え」を出さないわけではありませんが、国際学会では、文化のちがいを考慮した上でデータの議論をしないと、「それは日本特有の現象ではないか」と懸念されてしまいます。日本人だけでなく,アメリカ人からもデータを収集して分析することで、甘えは日本独特の現象なのではなく、言葉にできないために自覚していないだけで、アメリカにも存在していると実証しました。文化心理学では、文化差を明らかにする研究がほとんどですが,私は文化による影響は大きいものの,人として共通している部分を指摘することも重要だと感じています。

全てのカリキュラムを英語で学ぶGISには、さまざまな文化背景を持つ学生たちが集まっているので、ダイバーシティ教育を実現しやすいと感じています。英語には日本語ほど明確な敬語がないので 、学生同士は学年を超えてフラットな関係でコミュニケーションを図れます。さらに、ディスカッションでは、語学力だけでなく,伝えようとする姿勢が重視されます。英語の表現が多少間違っていたとしても、伝えようとする熱意のある相手の話は、自然と耳を傾けて、じっくり聞こうとします。表面上の話し方や訛りのちがいを超えて,自分の意見を発信し,また,人の話をじっくり聞こうとする姿勢こそ,ダイバーシティー尊重の根源だと感じています。

心理学を学ぶ強みは、周りの人がよく見えるようになること。気分を害するような言葉を受けたときに、自分が傷つかないように心を守ることはもちろん、「どうしてそんな言い方をするのだろう」と考え、歩み寄ることで、もっと深いところで理解し合える可能性も生まれます。そうした実践知を、心の成長に役立ててほしいですね。

最先端の研究を進めている環境で心理学の神髄を学びたいと、ミシガン大学に留学。当時から自尊心に関する研究を進めてきた

新谷 優 教授

GIS(グローバル教養学部)グローバル教養学科

1976年東京都生まれ。国際基督教大学教養学部教育学科卒業後、東京大学人文社会系研究科社会心理学博士前期課程修了、ミシガン大学心理学部社会心理学博士後期課程修了。社会心理学部ph.D。ミシガン大学 Institutefor Social Research 博士研究員を経て、2008年よりグローバル教養学部助教として着任。2011年より准教授、2016年より教授に就任。現在に至る。近著に『自尊心からの解放 幸福をかなえる心理学』(誠信書房)がある。

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