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東アジアの国際秩序形成への道筋を 理論研究を通じて探究

グローバル教養学部グローバル教養学科
湯澤 武 教授

  • 2020年2月7日 掲載
  • 教員紹介

証拠に基づく論理的思考の重要性を説き、国際関係の理論研究にまい進する湯澤武教授。アジア独特の制度的慣習を乗り越え、地域諸国間に安全保障協力の規範を根付かせる仕組みを模索しています。

アジアの国際関係を理論でひもとき理解する

国際関係論を専門としています。現在は東アジアに安定した地域秩序を構築するという観点から、地域諸国間に安全保障協力の規範を根付かせるにはいかなる仕組みに基づいた多国間協力の枠組み(多国間制度)が有効なのか、それを理論的に解明する研究を行っています。

国際関係を理解する上で理論の知識は不可欠であると考えています。国同士の関係は、経済や文化レベルで深い協力関係があっても、政治・安全保障レベルで深刻な対立が生じることもあり流動的です。関係の安定化に向けて適切な策を講じるには、そこで展開される複雑な因果関係を理解する必要がありますが、理論はその因果関係の分析に大いに役立ちます。

理論研究を進めるに当たって、エビデンス(証拠)を重視しています。国際関係論の分野では、実証が甘い理論研究が目立ちますが、単に新聞などのメディアから得る情報や学術書を引用するのではなく、なるべく一次資料を収集することを心掛けています。公文書を確認したり、政策立案者など現場を知る人に聞き取り調査をして、根拠のある裏付けを取ってこそ、変化していく時代に合った柔軟な理論を構築できると思うからです。

研究成果は、国際学会での報告や海外の学術誌などを通して発表し、広く国際社会に周知することを心掛けています。また政府関係者と研究者が一堂に会する「トラックⅡ外交会議※」に関与し、研究成果を外交の現場に伝える努力もしています。会議や聞き取り調査で出会う国内外の政策立案者からは、多国間制度を担当するポジションに就くにあたり、私の文献を読んで勉強したという話を聞くこともあります。自分の研究成果は、政策立案者の知識の蓄積に少しは役立っているようです。

自分の研究はまだまだ道半ばですが、研究を進展させることで、学術の世界だけでなく、外交の現場にも間接的に貢献できればと考えています。

組織的慣習の壁を乗り越えて協力の規範を拡散させる

近年東アジアでは、大国間の力関係の変化が顕著になったことで、領有権を巡る争いや軍拡競争が激化し、地域秩序の不安定化が進んでいます。このような地域環境の中で、各国の軍事的透明性や紛争予防を促進する実効的なシステムの構築が急務であるという声が高まっています。過去20年の間、その取り組みは主に東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラムといった日米中をはじめとする地域主要諸国を含む多国間制度の中で行われてきましたが、それはほとんど進展していません。結果として、アジアの多国間制度は、しばしメディアから、口先だけで実際の行動が伴わない単なる「おしゃべり(talk shop)」の場に過ぎないと批判されることが多々あります。

その原因については、各国間の安全保障観の違いなどが挙げられてきましたが、私の研究は、そのような外的要因よりも、むしろこの地域の多国間制度に根付く独特の組織的慣習といった内的要因に着目しています。欧米のような契約社会では、合意した国際ルールは、契約に基づいて着実に実行することが当然視されますが、アジアでは特に政治・安全保障の分野では、国際ルールに合意をしても、その実行は各国の自発性に任せるというスタイルが根付いています。その結果アジアの多国間制度では、合意された協力が実行されない、あるいは効果が疑問視されるような形で実行されるといったことが繰り返し起こります。紛争予防のシステム構築といった高度な協力を実現するには、地域諸国間に一定程度の相互信頼が確立される必要がありますが、そのためにはまずこのような悪しき慣習を排除し、代わりにどんな小さなものでも合意した協力は着実に実行するということを慣習として根付かせる必要があります。どのような多国間制度の仕組みであれば、それが実現できるのか。ここ数年、社会学や組織論、政策科学論など他分野の理論的知見も取り入れて、国際関係分野における組織的慣習の発展や変化に関する理論の構築に取り組んでいます。

証拠に基づく論理的思考を武器に

学生時代だからこそ、鍛えてほしいスキルが論理的思考力です。社会に出れば、大なり小なり自分で仕事を作り出し、それを実行するだけでなく、具体的な成果を出すことを要求されます。

その際、論理的な思考ができれば、仕事の成功率は俄然高まります。論理的思考力は、人生を自分で切り開いていくために必要なスキルなのです。

大切なのは、ただ論理的に思考を巡らせるのではなく、証拠やファクト(事実)に基づいた持論を組み立てる力を養うことです。ゼミではこの能力を強化する課題を多く取り入れています。例えば文献講読の課題では、論文の論理構造を明らかにし、自ら探し出したファクトと照らし合わせて、その妥当性を批評する小論を書いてもらいます。ディスカッションでも、単に「思いつき」で意見を展開するのは禁止です。事前に下調べをして、持論の裏付けとなる根拠を提示してもらいます。

人工知能(AI)が社会を席巻する世界が間近に迫る中、人間に求められるのは、証拠に基づいて論理的に思考し、問題を解決に導く力だと思います。それを自分の武器にできるように、学生の潜在能力を引き出し、磨く後押しをすること。それが、私なりの「実践知」だと考えています。

情報を正しく把握するためにも、現地を訪れてのフィールドワークを大切にしたい

少なくとも年に一度は海外を訪れ、その国の政府関係者や有識者を訪ねて情報収集を行っています。訪問先の多くはアジア太平洋地域の国々で、研究対象によって異なります。

2019年10月に、国際共同研究プロジェクトに招請されて、研究報告を兼ねた会合に出席するためにシンガポールに出張してきました。このプロジェクトの目的は、米国と中国という超大国間の関係が極度に悪化し、アジアの地域秩序が不安定になっている中で、日本、韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国、オーストラリア、インド、といった周辺諸国が秩序形成のためにいかなる協力を行うことができるのかを考察するものでした。当該の国々から研究者が集まり、各自の研究結果の報告や議論をするなかで、海外の研究者と活発な意見交換をすることができ、充実した時間を過ごしました。この時の研究成果は、海外の出版社から学術書として刊行されますが、別途政策提言としてもまとめられる予定です。

新聞などメディアから得た情報は、現地を訪れて政策立案者や有識者へインタビューをするなどして得られた現場の声とは異なる場合が多くあります。それだけに、自分自身の目と耳で情報を集めて精査する、フィールドワークの重要性は強く感じています。海外での調査にはまとまった時間を要するため頻繁に行くことはできませんが、春や夏の長期休暇を利用するなど、できるだけ機会を見つけて、適切な情報を入手する手間は惜しまないようにしたいと思っています。

2020年3月下旬には、米国で開催される国際関係学の分野では世界最大の国際学会に参加し、研究報告を行う予定です。国家あるいは国際制度に根付く外交的慣習が国際関係にどのような現象を生み出しているのかについて研究を行っている学者に協力を仰いでパネルを組織し、同学会の研究大会に応募したところ、無事に受理されました。どのパネルメンバーも、理論構築はもとより、フィールドワークを通した一次資料の収集を重視する研究を行っており、独創的な成果が出ることを期待しています。近い将来、この研究をベースに国際的な研究プロジェクトを立ち上げることができればと思っています。

※トラックⅡ外交:民間の研究機関と大学の研究者を中心とした会合に、政府関係者が個人の立場で出席し、政府の立場にとらわれずに自由に意見交換をする「民間外交」のこと。

2014年には、南洋工科大学ラジャラトナム国際学院とシンガポール国軍指揮幕僚大学の共催のもと、シンガポールで開催されたトラックⅡ外交会議で講演

グローバル教養学部グローバル教養学科

湯澤 武 教授

The London School of Economics and Political Science (LSE)博士課程修了(国際関係学博士)。民間企業勤務後、大学院に留学。その後日本国際問題研究所常勤研究員などを経て、2010年に本学グローバル教養学部准教授に着任、2016年より教授。現在に至る。

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