• ホーム
  • 研究
  • 建築の設計実務と大学教育(デザイン工学部建築学科 赤松 佳珠子 教授)

建築の設計実務と大学教育(デザイン工学部建築学科 赤松 佳珠子 教授)

  • 2020年10月14日 掲載
  • 教員紹介

2019年度に受賞・表彰を受けた教員の研究や受賞内容を紹介します。

赤松佳珠子教授は、下記の通り受賞しました。

「第7回京都建築賞 最優秀賞」(一般社団法人京都府建築士会)
作品「京都外国語大学新4号館」

「International Architecture Awards 2019-Transportation-」(The Architecture Community)
作品「アストラムライン新白島駅」

「日本空間デザイン賞2019 大規模商業空間部門 銀賞」(一般社団法人日本空間デザイン協会、一般社団法人日本商環境デザイン協会)
「第64回鉄道建築協会賞 特別賞」(一般社団法人鉄道建築協会)
「2019年度グッドデザイン賞 ベスト100」(公益財団法人日本デザイン振興会)
作品「渋谷ストリーム」

                   撮影:(C)ToLoLo studio

法政大学のデザイン工学部建築学科では、非常に精緻な理論に基づいた学術的研究により素晴らしい成果を挙げている教員と同様に、社会に於ける実践的な設計活動と大学での教育活動の両方を同時に行っている教員も多く在籍しています。私のように、意匠設計を行う教員だけではなく、構造や構法、環境設備などの分野においても、研究活動、教育活動、設計活動を横断的に行う事で様々な知見を学生たちに伝え、問題抽出から課題解決、実践的思考などを深める教育を行っており、その幅の広さが大きな特徴であり魅力の一つであると言えるかもしれません。

この度、私がパートナーを務めている設計事務所に於いて設計(1つはデザインアーキテクトとして)に携わった3つのプロジェクトが、それぞれ建築の賞を受賞し、このような機会を頂くことが出来ましたこと、大変嬉しく思っております。

その3つのプロジェクト「京都外国語大学新4号館」(京都市)・「アストラムライン新白島駅」(広島市)・「渋谷ストリーム」(東京都)は、各々規模や用途、機能などが全く異なります。ただ、建築を設計することにおいて共通しているのは、その場所の地域性や気候・風土、文化、歴史などに繋がる固有性を持っていること。そこには必ず人々の活動、アクティビティが関係すること。そして、その建築が建つことによって、様々な意味で、周辺環境に影響を与えていることだと考えています。

「京都外国語大学新4号館」(京都市)

「京都外国語大学新4号館」(京都市)では、建築が建て込んだキャンパスに於ける、新しい学生たちのラーニングセンターを設計しました。キャンパスにおける教室の利用率調査などから、必要とされる教室数や教室の大きさ、学生達の多様な活動に必要であろうと思われるスペースを導き出し、計画敷地両側にある既存緑地や広場などの外部空間との連続性や、学生たちの学びを促す空間の在り方などを提案しました。学生達の様々な活動をサポートする場として座れる大階段、吹き抜け周りのカウンター、自由に使える家具などを点在させました。

また、教室ゾーンでは通常の教室と廊下の組み合わせではなく、廊下を「フレキシブル・ラーニング・エリア」として、学生達の様々な活動をサポートする場として捉えなおし、ホワイトボード壁や、家具などを点在させて自由に使える空間としました。完成した建築空間やその周辺に展開する学生たちの活動の状態が高く評価されました。

京都外国語大学新4号館(京都市) 撮影:(C)ToLoLo studio

「アストラムライン新白島駅」(広島市)

「アストラムライン新白島駅」(広島市)では、広島市内と郊外の住宅地を結ぶ既存の新交通システム・アストラムラインの軌道と、丁度交差する位置にある既存のJRの高架駅とを繋ぐために、アストラムラインの地下部分に新たな乗り換えの為の駅を新設するという、建築と土木が融合したプロジェクトでした。地下のホームからも空を見上げることが出来るトップライトがあり、明るい自然光が入ります。地下から地上に上がり、JRとつながる通路部分が、非常に交通量の多い国道の中州という特殊な位置関係にありましたが、利用する人たちが気持ちよく乗り換えできるような、都市の新しい結節点をどのように作り出すのかを模索しました。

アストラムライン 新白島駅(広島市) 撮影:(C) SADAO HOTTA

「渋谷ストリーム」(東京都)

「渋谷ストリーム」(東京都)は、東急東横線渋谷駅跡地という渋谷を象徴するような場所における巨大再開発のプロジェクトです。渋谷川、JR、東横線、明治通り、首都高というあらゆるインフラが錯綜する世界的にも類を見ない複雑な都市のただなかに、「かつて地上にあった渋谷駅」の記憶の継承や、鉄道高架という土木的な遺構、渋谷川という裏的な場所などを取り込みながら、渋谷らしさを生かした場所として超高層の足元を空間化しました。周辺環境に対して閉じるのではなく、完全にオープンな作りで、道の延長のまま通り抜けることが出来るストリートとして、人々の賑わい、街の雑踏、自然の風や時間の経過をダイレクトに感じることができる場所であり、人々を街に繋げるハブのような役割も果たしています。従来の再開発の手法にはない新たな再開発の在り方として高い評価を頂きました。

渋谷ストリーム(東京都) 撮影:(C)DAICI ANO

建築の設計はその都度、様々な条件や要望、コスト、期間など極めて多くの事柄が複雑に絡み、決して同じではありません。いかにして関係者や多くの人々に喜んで、楽しんでもらえるような建築空間を実現することが出来るのか。多くの事柄を解決していきながら、そのプロジェクトだからこそ実現できる新たな提案を常に模索しています。建築のデザインとは、形や色、素材など表面的なことだけを取り扱っていると思われがちですが、本質的には広く文化や経済、思想にまでかかわる奥行きの深い思考を伴います。そういった多様な思考や知識、社会と直接関わる設計活動を行っているからこそ学生たちに伝えることが出来る事柄を大学での教育にしっかりと生かしていけるようにと考えています。

法政大学デザイン工学部建築学科

赤松 佳珠子 教授(Akamatsu Kazuko)

1990年日本女子大学家政学部住居学科卒業後、シーラカンス(のちのC+A、CAt)に加わり、2002年よりパートナー。現在、CAtパートナー、法政大学教授、神戸芸術工科大学非常勤講師、日本学術会議連携会員。主な作品に、流山市立おおたかの森小中学校・おおたかの森センター・こども図書館、恵比寿SAビル、渋谷ストリーム(デザインアーキテクツ)、山元町役場など。主な受賞に、日本建築学会賞(作品)、村野藤吾賞、建築業協会賞(BCS賞)など。


※所属・役職は、記事掲載時点の情報です。

ページトップへ