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日本セラミックス協会フェロー表彰(生命科学部環境応用化学科 石垣 隆正 教授)

  • 2020年10月19日 掲載
  • 教員紹介

2019年度に受賞・表彰を受けた教員の研究や受賞内容を紹介します。

石垣隆正教授は、「第4回日本セラミックス協会フェロー表彰」(日本セラミックス協会)を受賞しました。

業績「気相法、液相法を用いて種々の機能性セラミックスナノ粒子を創製」

受賞理由

気相法、液相法を用いて種々のナノ粒子セラミックスを創製し、セラミックス基礎科学を発展させたことや、日本セラミックス協会の活動を通じてセラミックス分野の発展に顕著な業績をあげたことが評価されました。

セラミックス微粒子の合成研究

私は、茨城県つくば市にある国立研究所で、セラミックス材料の気相合成に関する研究を開始しました。1万度以上の温度を持つプラズマを利用したセラミックスの気相合成で、固相あるいは溶液プロセスでは生成しない物質の合成をめざしました。2009年に法政大学に移ったのを転機として、水溶液プロセスを利用したセラミックス材料合成にも取り組んでいます。

1万度以上の高温プラズマ中では、固体微粒子は瞬時に溶融します。金属酸化物は非常に高い融点を持っています。例えば、酸化アルミニウム(Al2O3)の融点は約2070℃です。溶融した粒子は表面張力で球状化します。粒径が数十~100ミクロン(1ミクロンは10-6m)の固体微粒子の球状化は、他の方法では実現できない、工業的にも重要なプロセスです。図1に、プラズマ中で溶融球状化した酸化アルミニウム粒子の電子顕微鏡写真を示します。全体としては、球形な粒子の表面にはとてもきれいな形態を見ることができます。図(a)では、樹枝状結晶が6方向に成長しているのが見えます。図(b)では、長方形が少し歪んだ四角形が積み重なったような構造になっています。溶融した微粒子の冷却固化する経過を反映する粒子の表情から、固化プロセスを推理するのはとても興味深いことでした。

図1.プラズマ中で溶融・球状化した酸化アルミニウム粒子の表面形態

さらに小さなナノサイズ粒子(1ナノメーターは10-9m)の気相合成では、気相から微粒子として凝縮するときに急冷効果が非常に大きくなります。ある温度で本来的に安定に存在する物質(安定相)に加えて、特別な条件によってできる物質(準安定相)が生成します。材料科学の言葉で表現すると、『非平衡相物質が生成した』となります。非平衡相物質の生成メカニズムの探求が重要で、私たちにとって役に立つ特性を持った物質(高機能材料)合成につながります。

現在は、液相化学反応により微粒子を合成しています。気相合成と比較すると、液相合成は簡単な道具立てで行います。小学生の理科の実験で、温水に溶かした食塩やミョウバン溶液を冷却することにより多様な形状、大きさの結晶を成長させたことがあると思います。高温プラズマ中の酸化物ナノ粒子の気相合成は、比較的純粋な反応系を与えます。気相から凝縮した微粒子と媒体である気相の熱のやりとりに注目すればよく、微粒子合成では急冷効果が有効に働いたことは上に示した通りです。液相合成の難しさは、合成媒体である液相(水溶液)の影響が大きいことにあります。酸化亜鉛(ZnO)の微粒子を合成するときには、亜鉛の塩(塩化亜鉛、硝酸亜鉛など)を水に溶かします。この水溶液のpHを上昇して塩基性にしたのち、少し加熱すれば結晶性の酸化亜鉛が生成します。図2に、さまざまな形態の酸化亜鉛微粒子を示します。溶かした塩濃度、温度により、微粒子の粒径、形態が変化します。さらに、酸化亜鉛の特定の結晶面に吸着するイオンの存在、吸着性化学種の添加により、形態に多様性が生じます。複数の試薬を加えるときは、どちらを先に加えるかによって生成物に差が生じることもあります。まるで、料理レシピのようです。結晶成長の多様性を味わい深く説明しながら、高機能物質の合成に取り組むのは大変にエキサイティングです。

図2.水溶液法により合成した多様な形態の酸化亜鉛微粒子

今後の展望 ―気相プロセスと液相プロセスの融合―

前項で述べたような気相法による非平衡相物質の生成、液相法によるさまざまな形態制御というそれぞれの方法の特長を組み合わせることにより、さらに興味深い物質合成をめざしています。液相中のターゲット材にレーザー照射するレーザーアブレーション法を熱プラズマ合成と溶液化学合成を融合した新合成法のモデル実験としてとらえて、研究を進めています。図3のように、液中に置いたターゲットにパルスレーザーを照射して発生するレーザー誘起プラズマは、温度が5千度近く、圧力数万気圧に達する高エネルギー、高密度プラズマ反応場であり、その周りに存在する液相制御が生成物の性状に重要な働きをします。高温高圧領域はごく小さく約1mm程度の大きさです。写真でわかるように、プラズマを発生していても周りの温度は通常の温度に保たれていて、ビーカーに手で触っても大丈夫です。液相プロセス同様、水溶液のpH制御、溶液中の酸化還元制御により、ナノ粒子の大きさとともに、準安定相の生成が変化することを見いだしました。

図3.液相レーザーアブレーション法による微粒子合成

法政大学生命科学部環境応用化学科

石垣 隆正 教授(Ishigaki Takamasa)

東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。工学博士。科学技術庁無機材質研究所(現 国立研究開発法人 物質・材料研究機構)を経て、2009年より本学教授。2016~2018年生命科学部長、2018年からマイクロ・ナノテクノロジー研究センター長。専門は、セラミックス材料科学。超高温熱プラズマを活用したセラミックス材料の気相合成、水溶液プロセスによる環境に優しいセラミックス微粒子合成に取り組んできた。


※所属・役職は、記事掲載時点の情報です。

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