• ホーム
  • 研究
  • 防滴型メガホンのロングライフデザイン受賞(デザイン工学部システムデザイン学科 安積 伸 教授)

防滴型メガホンのロングライフデザイン受賞(デザイン工学部システムデザイン学科 安積 伸 教授)

  • 2020年11月17日 掲載
  • 教員紹介

2019年度に受賞・表彰を受けた教員の研究や受賞内容を紹介します。

安積伸教授は、「2019年度グッドデザイン賞 グッドデザイン・ロングライフデザイン賞」(公益財団法人日本デザイン振興会)を受賞しました。

作品「メガホン(防滴ハンド型メガホン)」(TOA株式会社)

この度、私が15年前にプロダクトのデザインを手がけた小型軽量・防滴型のトランジスタメガホンER1106シリーズが、グッドデザイン・ロングライフデザイン賞2019(以下、ロングライフデザイン賞)に選定されました。

ロングライフデザイン賞とは、公益財団法人日本デザイン振興会が選定するグッドデザイン賞の延長上にあり、これから生まれるデザインの手本となり時代を超えるスタンダードと評価された商品・サービスに贈られる賞です。15年前に思いを込めデザインした物が時間を経ても色褪せず生活の中で場所を得て存在し、高い評価を受けた事は非常に光栄だと感じております。

受賞作品のメガホン

デザインのモチベーション

デザインを手がけた当時、このプロジェクトには独自の価値を感じ、高いモチベーションをもって取り組んだことを記憶しています。まず「手持ち型のトランジスタメガホン」というテーマに強い興味を持ちました。この機器は1950年代に出現し社会活動を支える軽便な拡声装置として一般的になりましたが、60年代からその姿がほぼ変化しておらず、いわばデザイン的には放置された状態だったと言えます。流行の機器には様々なテクノロジーが注ぎ込まれ、華やかな外観を競って我々の消費を煽り短いサイクルで消えてゆくものが多く存在しますが、「トランジスタメガホン」は対極的な存在です。一度購入されたら備品としてずっとそこに存在し、テクノロジーの進化も緩やかで簡単には型落ちもしません。そのような物のあり方は、私にとって流行の機器よりも魅力的で、理想的に感じられました。また長くデザイン的に顧みられることのなかった機器ですので、改良・改善すべき点を多く発見し、デザインによって飛躍的な進化を遂げることが出来るのではないか、という感触を持ちました。さらに、このメガホンの製造が「世界初の量産型トランジスタメガホン」を生んだ企業による事にも、至上の価値を感じました。

デザインのポイント

デザインを行う上で、最初に考えたのはユーザーの事です。従来のメガホンは、混雑する場所での人員整理や、非常時のアナウンス、政治家の街宣などでの使用を想定するためか、どこか重苦しく威圧的な印象を与えるものばかりでした。しかし現実には、幼稚園を含む多くの学校、ビーチやアミューズメントパークなど楽しい場でも広く使用されています。このデザインでは、厳めしいステレオタイプから現実のユーザーに合ったものへの変革、親しみを感じつつ使いやすい機器へのアップデートを指針とし、細かな機能性や形状・素材・色の精査を行いました。

旧来のメガホンでまず気になったのは、巨大なホーン部が話し手と聴衆の間に壁を作っていることへの違和感です。ホーン部に透明素材を用いる事により、音響性能を損なわず、話し手と聴衆のお互いの顔が見えるように変更しました。また、それまでおざなりに扱われていた集音部も、音響性能を向上するためにメッシュドームを採用し、高音質なマイクロフォンとしての性能を強化・強調しています。色彩計画に関しても従来の標準であった「白」に疑問を呈しました。白は汚れやすい色であり、経年変化で黄変した樹脂色も見目よいものではありません。そういった不具合を持ちながら「白」が慣習的に使用される事には必然がない事を説き、汚れが目立ちにくく高品質な印象を与えるダークグレーを標準色とし、使用の場に応じた黄色、赤などのカラーバリエーションを計画しました。さらに細かい部分では、様々な持ち方に対応した使い勝手の良いハンドルやバッテリーのレイアウト等、ユーザー目線から気になる機能性は全て精査し、細かく改良を行った結果、このデザインが生まれました。

デザインの評価

受賞に際し、ロングライフデザイン賞の審査員から以下の様なコメントを頂いています。

「透明パーツとマイク部の素材の組み合わせには高密度な道具らしさが感じられ、とても使いやすい。このメガホンが登場した当時は、コンパクトで機能的ながら何よりスタイリッシュな見た目が印象的だった。新しいものが登場したとき、このインパクトはそのまま物の力となりスタンダードな道具として私たちの生活の中にその居場所を刻んだ。」

発表当初、これまでと異なったデザインが若干の戸惑いをもって受け入れられた事が読み取れます。しかしデザインの進化が決して嗜好的なレベルではなく、機能性に裏打ちされた必然の集積である事、使い勝手への徹底した配慮がロングライフデザインを生んだ事を理解いただけたと受け取っております。

デザインの可能性~今後の展望~

デザインした器物・機器が日常に深く溶け込み、長い時間生活を共にする存在となる事。それはプロダクトデザインのひとつの理想であり、可能性であり、力であると考えます。

また世の中は物事の先進性にばかりに目が奪われがちですが、目立たなくとも我々の生活を支える重要な存在、長く顧みられなかった価値に改めて気づく眼を持ち続けたいと思います。

法政大学デザイン工学部システムデザイン学科

安積 伸 教授(Azumi Shin)

プロダクトデザイナー。英国王立美術大学修士課程修了。ロンドンにて「a studio」設立。国際的企業と多数のプロジェクトに参画する。受賞歴:FX International Interior Design Award (英) 他。審査員歴:iF Design Award (独) 他。作品収蔵:Victoria & Albert Museum (英) 他。


※所属・役職は、記事掲載時点の情報です。

ページトップへ