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【HOSEI PHRONESIS】条件の厳しい農山村の未来に向けて現地に寄り添った政策づくりにまい進

現代福祉学部福祉コミュニティ学科
図司 直也 教授

  • 2022年4月20日 掲載
  • 教員紹介

中山間地域の農山村が、次世代につながるよう地域政策づくりに取り組んでいる図司直也教授。現地の人と触れ合うことを大切にしながら、地域の価値向上に尽力しています。

未来の日本が直面する問題に先行して取り組む

農業経済学を専門に研究を続けています。主に、農業をなりわいとしている地域社会の構造や経済活動の実態を調査し、そこでの問題点や課題を浮き彫りにして、改善点を探りながら政策として提言しています。

研究対象として特に着目しているのが、山間地とその周辺地域である中山間地域です。農業生産の条件が厳しい農山村ですが、豊かな自然環境、潤沢な水資源、長年の技術や知恵など有形無形の地域資源が数多く残されています。国土保全の観点からも、みすみす廃れさせてしまうわけにはいきません。

そのために、できるだけ現地に赴いて地域住民の方々から生の声を聞き、時には共に汗を流しながら、その地域の特性を把握することに努めています。その上で、少しでも地域の価値を磨き高めるお手伝いができないかと模索しています。

農業はグローバルな規模で影響を受けやすいだけに、地域になじむ政策を考えることが必要です。ただ、現場で苦労している方々は、自分たちの現況や問題点を客観視する余裕はありません。だからこそ現場を知る第三者が関わることで、地域の強みを見いだし、具体的な行動につながる指針づくりへの助言ができると考えています。

さらに、過疎化・高齢化にまつわる課題はいずれ都市部にも降りかかります。すでに多摩キャンパスのある東京・多摩地区などの都市郊外でも、人口減少の影響がささやかれています。

超高齢社会を迎えた日本では避けようのない未来の課題解決に向けて、先行して実践事例に取り組んでいると捉えて、知見やノウハウを蓄積していく姿勢を大切にしています。

一般財団法人地域活性化センター主催の「全国地域リーダー養成塾」でも人材育成に協力。2021年秋の現地研修で宮崎県日南市・坂元棚田の保全活動を視察

研究・教育・現場貢献の三つを成し遂げたいと大学教員の道へ

大学時代、教室に置かれていた、熊本県小国町でのフィールドワークに参加を呼び掛ける一枚のチラシ―。それを偶然手にしたことが、私の人生の分岐点でした。

フィールドワークを通じて現地の人たちとの距離が縮まると、そこで起きている問題や、そこで生きる人の思いが人ごとではなくなります。地域の人との意見交換の中で、「よそ者」の自分でも、現場に寄り添いながら課題解決に携わることで、役に立てることがあると実感したのです。

やがて、課題解決のためのノウハウを蓄積する「研究」、次世代を担う人材を育成する「教育」、地域の持続性を高めるために有効な「政策づくり」という三分野で社会に貢献したいと考えるようになり、その実現が図れる大学教員を目指しました。

縁あって現代福祉学部の教壇に立つようになり、大学と社会をつなぐ立場で農業・農村地域政策の問題に包括的に関われることは感謝していますし、大きなやりがいも感じています。

それだけに、コロナ禍の影響で現地を訪れることが難しくなったことは、残念でした。たとえ数日でも同じ地で過ごして語り合い、体験を共有することで心の距離も縮まるので、政策づくりの効果が高まるからです。

学生の学びも、机上で習得できる知識よりも、体験から得られる実感の方が印象は深まります。

これからのポストコロナの時代を見据え、現場との距離感を縮めるオンラインの手段も活用して、フィールドへのアプローチに創意工夫の必要性を感じています。

岡山県津山市知和地区にて開催したゼミのフィールドワークでは、地域農家の稲刈りや天日干しのための稲架(はさ)掛けで汗を流した(2018年秋撮影)

洞察力を磨き、いい出会いを果たしてほしい

社会に出てどのような職業に就こうとも、人との関わりは欠かせませんし、多くの課題に直面するでしょう。二つの姿勢を大事にすることが、その備えに役立つと思っています。

一つ目は「洞察力を磨く」。社会で直面する問題は複雑です。いくつもの事情が絡み合い、解決を難しくしている問題もあります。困難な状況にあっても、投げ出すことなく向き合い、自分が果たせる役割を見つけたり、対処する方法を考えて行動するなどしなければ解決にはつながりません。洞察力を培っておくと、状況の把握や全容の推察に役立つので、解決策の手掛かりを得やすくなります。

二つ目は「すてきな大人に出会って話を聞く」。人がどのようなプロセスをたどって、今居る場所にたどり着いたのか。それを知ることは、自分の行く末を考える上での出発点になります。

私自身、恩師をはじめとして、多くの先輩方に出会い、背中を追うことで成長してきました。先輩方が歩んできた足跡をそのままたどるのではなく、自分なりにアレンジして、学生に伝えていく。それが、私自身の「実践知」につながると考えています。

学生時代には「地域づくりインターン」に継続的に参加。山梨県小菅村を訪れている時に開催された地区の祭りは、いい思い出となった

(初出:広報誌『法政』2022年3月号)

現代福祉学部福祉コミュニティ学科

図司 直也 教授(Zushi Naoya)

1975年愛媛県生まれ。東京大学農学部農業構造・経営学専修卒業、同大学院農学生命科学研究科農業・資源経済学専攻博士後期単位取得満期退学。博士(農学)。財団法人日本農業研究所研究員を経て、2007年に本学現代福祉学部専任講師として着任、2009年より准教授、2016年より現職。地域振興・人材育成に関するアドバイザーとして、農林水産省の有識者委員会にも参加。「中山間地域等直接支払制度に関する第三者委員会」では委員長を務める。

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