• ホーム
  • 研究
  • 【HOSEI PHRONESIS】江戸時代の文芸を多面的に探究

【HOSEI PHRONESIS】江戸時代の文芸を多面的に探究

文学部日本文学科
小林 ふみ子 教授

  • 2022年11月8日 掲載
  • 教員紹介

狂歌・戯作や浮世絵に代表される江戸時代の文芸に魅了され、多面的に研究を深める小林ふみ子教授。
「法政愛」にもあふれ、本学の自校教育やブランディング事業などに深く関わっています。

文芸研究を教育につなげる奥深さを再確認

江戸時代の文芸の研究に従事しています。研究対象は幅広く、中でも、狂歌※1をはじめとする 大田南畝 おおたなんぽ の作品群、葛飾北斎らの浮世絵の世界には魅了されています。

文芸作品を通じて江戸文化を探究していると、江戸東京という都市の個性や価値が見えてきます。江戸東京研究センター(EToS)では昨年度から「江戸東京の『ユニークさ』研究」というプロジェクトでリーダーを担い、研究、情報発信にも努めています。

法政大学に着任した当時は、文学部ではなく、設立2年目のキャリアデザイン学部に籍を置いていました。新しい教育を作り上げようと尽力する輪の中で、「現代人のキャリアデザインに興味を持つ学生に、自分が提供できる学びは何か」と考え抜き、学生と真剣に向き合う日々を送りました。長年続けてきたガールスカウト活動で培ったコミュニケーションスキルを武器に、江戸から現代人の当たり前を相対化し、学生の学びを深めることに努めたつもりです。

キャリアデザイン学部で模索した経験があるからこそ、文学部に転任してからも多面的に研究の幅を広げ続けていられるのだと自負しています。

大田南畝ゆかりの神社として知られる、ときわ台天祖神社によるまちづくり活動に招かれて講演。これも私なりの「実践知」です

大田南畝ゆかりの神社として知られる、ときわ台天祖神社によるまちづくり活動に招かれて講演。これも私なりの「実践知」です

歴史的な視野を持って問題意識を喚起する

私たちが認識している「伝統文化」は、古来から厳かに継承されてきたものばかりではなく、近代になって都合よく創造されたものもあることが明らかになっています。実際に、文献と照らし合わせてみると、「常識」だと思われていた事柄が実はそうではなかったり、昔は「当たり前」だったのに、いつの間にか特別視されるようになったりしていることがあります。性を巡る事情や夫婦の姓をはじめとする家制度もその一つです。

近世日本は家制度が浸透した時代ですが、夫婦の同姓は一般的でなく、墓も家単位ではなく個人墓も多く、血縁はそれほど重視されず養子が家を継ぐことも多くあったようです。また古来「男色」が存在し、特に江戸時代は盛んでした。文芸作品や数多くの浮世絵に描かれていることから、ごく当たり前の日常だったことが分かります。

しかし、現代の日本は同性愛に対する偏見が存在し、明治の国家主義に合わせて作られた家制度が「伝統」とみなされがちです。

こうした現状に警鐘を鳴らす意味で、授業では意図的に江戸時代の状況に触れ、「思い込みに惑わされず自由に思考すること」の大切さを伝えています。歴史的な状況を知ることで現代を相対的に見る、つまり異性愛のみを前提に結婚によって女性が家庭に奉仕することで成り立つ社会設計が当然でないことへの気付きを促したいと考えています。

文学は、心を豊かにしてくれる学問ですが、社会の中で直接何かの役に立つ実学ではありません。しかし、現代社会が抱える課題に対して、歴史的な視野を持って、問題意識を喚起し、情報を発信していくことはできます。それが私なりの「実践知」です。

次の目標は、東アジアの近世・近代都市で生きる女性たちに焦点を当てて実施したシンポジウムの成果をまとめて書籍化すること。年度内の出版を目指し、原稿の集約に取り組んでいます。

アクティブラーニングで日本古典文学の学びを現代に生かすための方法を研究する共同プロジェクトでワークショップを実施

アクティブラーニングで日本古典文学の学びを現代に生かすための方法を研究する共同プロジェクトでワークショップを実施

法政学を通じて法政大学の真価を伝えたい

法政大学には、引き寄せられたような縁と愛着を強く感じています。

文学部のある市ケ谷キャンパス周辺は、大田南畝の生家があったことに加えて、文学史に名前を連ねる文人たちにもなじみが深い場所です。日々が「聖地巡礼」のような気分で、大田南畝ゆかりの地で働けることに喜びを感じながら、キャンパスに通っています。

2008年に「明日の法政を創る」審議会が設置された際には委員として末席に加わり、本学をより深く理解できる「法政学」※2設置を議論し、その授業は開講時から担当しています。その経験を生かし、本学のブランディング事業が始動した際には、「ブランディング戦略会議」に積極的に携わり、法政大学憲章の草稿作成も担当しました。

2022年度は文学部100周年の節目の年でもあり、記念イベント運営にも携わっています。

こうした活動の根底には「一人でも多くの学生が法政大学の真価に気付き、そこで学ぶ喜びを実感してほしい」という思いがあります。興味があれば、ぜひ「法政学」に触れてみてください。自由な議論を尊んだ、心豊かでユニークな先人たちの姿がそこにあります。法政大学を内側から知ることで法政大学が母校であることを誇らしく感じてくれたらと願っています。

2017年の授業科目「法政学への招待」の科目責任者仲間の髙栁先生、担当の戸部課長(当時)、TA(ティーチングアシスタント)の鄭さんと共に

2017年の授業科目「法政学への招待」の科目責任者仲間の髙栁先生、担当の戸部課長(当時)、TA(ティーチングアシスタント)の鄭さんと共に

※1 狂歌:五七五七七の31文字で構成され、社会風刺などが詠まれた和歌(短歌)の一種。
※2 法政学:全学部対象のリベラルアーツ科目(総合教養科目)。正式な科目名は「大学を知ろう<法政学>への招待」(旧科目名「法政学への招待」)。

(初出:広報誌『法政』2022年10月号)

文学部日本文学科

小林 ふみ子(Kobayashi Fumiko)

1973年山梨県生まれ。東京大学文学部日本語日本文学専修課程(国文学)卒業、同大学院人文社会系研究科日本文化研究専攻日本語日本文学専門分野博士課程修了。博士(文学)。日本学術振興会特別研究員(DC2)、ロンドン大学アジアアフリカ研究学院(SOAS)客員研究員、日本学術振興会特別研究員(PD)などを経て、2004年にキャリアデザイン学部専任講師に着任。同学部准教授を経て、2011年より文学部准教授に転任。2014年より現職。現在に至る。日本文学協会、日本近世文学会、国際浮世絵学会所属。

ページトップへ